荻原井泉水の俳句

うちの蝶としてとんでいるしばらく     井泉水

(うちのちょうとしてとんでいるしばらく)
(uchi no chou to shite tonde iru shibaraku)

みどりゆらゆらゆらめきて動く暁     井泉水

(みどりゆらゆらゆらめきてうごくあかつき)
(midori yura yura yurameki te ugoku akatsuki)

咲きいづるや桜さくらと咲きつらなり     井泉水

(さきいずるや さくらさくらと さきつらなり)
(saki izuru ya sakura sakura to saki tsuranari)

怒にかつとして夢であったか     井泉水

(いかりにかっとして ゆめであったか)
(ikari ni kattoshi te yumed e atta ka)

月光しみじみとこうろぎ雌を抱くなり     井泉水

(げっこうしみじみとこうろぎめすをだくなり)
(gekkou shimijimi to kourogi mesu o daku nari)

空をあゆむ朗朗と月ひとり     井泉水

(そらをあゆむ ろうろうと つきひとり)
(sorao ayumu rou rou to tsuki hitori)

金色に熟れおもたくて落ちたり木の実     井泉水

(こんじきにうれ おもたくて おちたり このみ)
(konjiki ni ure omotaku te ochitari konomi)

鶯、針もつて暇みつけて来てくれた     井泉水

(うぐいす、はりもってひまみつけて きてくれた)
(uguisu hari motte hima mitsuke te kite kureta)

石のしたしさよしぐれけり     井泉水

(いしのしたしさよしぐれけり)
(ishi no shitashisa yo shigure keri)
 

男と女あなさむざむと抱き合ふものか     井泉水

(おとことおんなあなさむざむとだきあうものか)
(otokot o onna ana samuzamu to dakiau monoka)
 

月光ほろほろ風鈴に戯れ     井泉水

(げっこうほろほろふうりんにたわむれ)
(gekkou horo horo fuurin ni tawamure)
 

棹さして月のただ中     井泉水

(さおさしてつきのただなか)
(sao sashi te tsuki no tada naka)
 

しずかに我腕に倒れしは我母にして     井泉水

(しずかにわがうでにたおれしわわがははにして)
(shizuka ni wa ga ude ni taoreshi wa wagahaha nishite)
 

太陽のしたにこれは淋しき薊が一本     井泉水

(たいようのしたにこれはさびしきあざみがいっぽん)
(taiyouno shitani korewa sabisiki azami ga ippon)

たんぽぽたんぽぽ砂浜に春が目を開く     井泉水

(たんぽぽたんぽぽすなはまにはるのめをひらく)
(tanpopo tanpopo sunahama ni haru ga me o hiraku)

われ一口犬一口のパンがおしまい     井泉水

(われひとくちいぬひとくちのぱんがおしまい)
(ware hitokuchi inu hitokuchi no pan ga oshimai)